研究概要 |
ケロイド組織におけるMMPsの産生亢進が、ケロイド組織の高い代謝活性や、疼痛・掻痒感といった持続する慢性炎症症状形成に関与しているのではないかという仮説を立て、ケロイド由来線維芽細胞と正常線維芽細胞におけるMMPs産生をmRNAレベルで比較することを試みた。ケロイドにおいては、MMP-1,8の発現が低下し、MMP-13がこれらに代わって上昇しているために、MMP-1,8の正常創傷治癒における過剰な膠原線維の吸収や上皮化促進といった機転に変わり、MMP-13の慢性潰瘍底におけるような周囲組織の改変機転がより強力に起こっていて、このことがケロイドの持続する慢性炎症や周囲健常皮膚への浸潤という症状の構成に関与している可能性が示唆された。また、ケロイド由来線維芽細胞におけるMMP-13の産生亢進がtretinoinを培地に加えた際に抑制されるか否かの検討を行った。ケロイド由来線維芽細胞の亢進したMMP-13発現はtretinoinを培地に加えることにより、mRNAレベルにおいても蛋白レベルにおいても著明に抑制された。tretinoinは、ケロイドの持続する慢性炎症や周囲健常皮膚への浸潤という症状の改善に有効である可能性が本研究により示唆された。さらに、ケロイドに対するtretinoin水性ゲルの外用療法の臨床研究を行い、tretinoin外用療法は、平坦化・面積縮小化を実現する動的な治療法ではなく、拡大・再発防止、疼痛・掻痒感の緩和といった予防的な治療法であることが示唆された。しかしながら、広範囲な病変にたいしても使用可能である、予想される副作用のかなりの部分が現在の技術で対処可能であるという大きな利点を持っており、外科的療法・中間的療法と併用する際の保存的療法の選択肢の1つとしては非常に有望であると考えられた。
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