近年再建外科において、移植前に何らかの外科的処置を加え目的に見合った移植組織を作成するprefabricated flapが注目されている。この術式は、既存の血行形態に依存せず組織移植が行える点に特長があり、新たな血管茎を作成したり、移植組織に様々な構成成分を付加したり、皮弁の拡大・薄層化を可能にするなど、多くの利点を有している。しかし一方で、prefabricated flapを実際に挙上する段階においては、作成した組織を剥離する必要があり、この剥離面における血管新生や癒着は、新たな血管茎の損傷や移植組織の血流障害の原因となりうる問題である。即ち、prefabricated flapにおいては、移植組織として密着し血管新生を期待する部分と、むしろ血管新生や癒着を防ぎたい部分と、二つの相反する特長が求められる。 癒着防止機構をもつ細胞として、中皮細胞が注目されている。そのメカニズムは中皮細胞の産生するtissue plasminogen activator(t-PA)や中皮細胞自体の構造によるとされている。臨床の場においても、中皮細胞により被覆されている胃管や空腸片などは、他の移植組織と比較して、移植後数年以上経過しても周囲組織からの剥離が容易であることはしばしば経験されるところである。本年度の研究においては、空腸をPrefabricated flapのvascular carrierとする実験モデルを作成した。空腸を選択した理由は、1)空腸自体がその血管茎となる腸間膜も含め中皮細胞に被覆されていること、2)1空腸粘膜を除去した後の粘膜下組織は、近年血管新生の豊富な場として注目され、再生医学の分野においても応用されはじめていること、3)ラットの空腸から中皮細胞を分離培養する技術が確立されていること、などである。 作成したprefabricatedの鋳型血管標本において、粘膜下層より良好な血管新生が認められ、また漿膜面においては中皮細胞の存在により周囲組織との癒着を制御することが可能であった.
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