研究概要 |
ロ腔レンサ球菌によって口腔内で合成される不溶性グルカンは、口腔レンサ球菌の歯面への定着を誘導し、う蝕発症を惹起させることが知られているが、不溶性グルカンのその他の病原因子としての機能について明らかでない。最近、βグルカンの炎症性免疫応答の誘導が明らかになったことから、我々は、αグルカンである不溶性グルカンにも炎症性免疫応答がみられ、歯周病発症に関与するのか、その可能性について検討を行った。マウスの腹腔滲出マクロファージへの不溶性グルカンの刺激によりTNF-α, IL-6,IL-8などの炎症性サイトカインを産生することを確認した。今年度は、1)ヒトマクロファージおよび好中球への不溶性グルカン刺激による炎症性免疫応答の可能性、2)水溶性グルカン(デキストラン)と不溶性グルカンによるマクロファージの炎症性免疫応答の相違について検討を行った。1)ヒトマクロファージへの不溶性グルカン刺激によりマウスのマクロファージと同様にTNF-α, IL-6,IL-8などの炎症性サイトカインの産生が認められた。また、IL-8の産生がみられることからも分かるとおり、これらのサイトカインを含んだ培養上清の存在する方向に好中球が遊走することを見出した。さらには好中球への不溶性グルカン刺激によって活性酸素の産生が誘導された。これらの結果から、不溶性グルカンによってマクロファージおよび好中球による炎症性免疫応答の誘導の可能性が強く示唆された。2)水溶性グルカンは不溶性グルカンと違い、単独ではマクロファージへの炎症性サイトカインやIL-8の産生誘導を示さなかった。しかし好中球の遊走能が誘導されたことから、なんらかのケモカインの産生が考えられた。また、不溶性グルカンと水溶性グルカンを混合することで、統計的には有意ではなかったもののマクロファージによる炎症性サイトカインの産生の増強が認められた。以上の結果から、不溶性グルカンは、ヒトのマクロファージや好中球を刺激することにより炎症性サイトカインや活性酸素の産生、好中球の遊走能などの炎症性免疫応答を誘導し、不溶性グルカンに隣接する歯肉上皮細胞にとって細胞傷害作用を受けやすい状態にさせることを明らかにした。
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