研究概要 |
酸化ストレスは、老化や疾病の促進、及び疾病発症の原因となる因子として重要である。酸化ストレスによって細胞内構造や生体分子が損傷を受ける。ライソゾームに蓄積するリポフスチン(老化色素)は、細胞質における酸化的損傷産物の一つである。以前、私共は2-7歳のDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)患者及び10週齢mdxマウス(DMDのモデル動物)のジストロフィン欠損筋において、リポフスチンが健常筋よりも早期に蓄積することを見出した(Nakae et al., Histochemistry and Cell biology, 2001, 115, 205-214 ; Nakae et al., Journal of Molecular Histology, 2004, 35, 489-499)。DNAの4種の塩基の中でグアニンは最も酸化され易く、酸化物8-オキソグアニン(OxoG)は細胞核の酸化ストレスの鋭敏なマーカーとなっている。本研究において、私共は筋細胞核のDNA中に含まれるOxoGの含量を非破壊的に(in situ)定量するための新しい方法を開発した(特願2004-160398 ; Nakae et al., Histochemistry and cell biology, 2005, 124, 335-345)。DNA染色のためのニュートラルレッド、OxoGに特異的な抗体及び細胞マーカーであるラミニンに特異的な抗体を用いた本法により、核DNA量に依存しない酸化指数として、OxoGの相対含量を測定することが可能となった。2-7歳のDMD患者の上腕二頭筋の筋核DNAの酸化指数は健常筋よりも14%高いことが明らかになった。また、8週齢mdxマウスの横隔膜の筋核DNAの酸化指数は健常筋より30%高かった。しかし、mdxマウスと健常マウスの舌筋の筋核DNAの酸化指数は等しく、低い値を示した(Nakae et al., Acta Anatomica Nipponica, 2006, 81(Suppl), 214)。リポフスチン顆粒は、mdx横隔膜では多かったが、mdx舌筋ではまれで、健常マウスの横隔膜と舌筋では観察されなかった。また、筋の変性と再生はmdx横隔膜で盛んに起こっていたが、mdx舌筋ではまれであった。これらの結果は、酸化ストレスとジストロフィン欠損筋の病理の関連を示唆する。私共の開発した酸化ストレスの定量的評価法が医学・生物学の研究に応用可能であることも確証された。 また、本研究の薬物スクリーニングにより、私共はmdxマウスの筋ジストロフィー症状を改善する物質Aを発見した(特願2005-237366)。その有効性から物質Aがヒト筋ジストロフィー(DMD)の治療への道を拓くものと期待される。現在、物質Aの分子作用機序を研究中である。
|