研究概要 |
前年度はエナメロイド形成時における歯胚上皮細胞の形態と機能について成果を得た(Sasagawa and Ishiyama,2005a, b)。今年度は同じ歯にエナメロイドとエナメル質の両方を有している硬骨魚類のエナメル質形成について知見を得てエナメロイド形成との比較を進めることができた。 硬骨魚類ガーパイクには薄いエナメル質(collar enamel)があり、両生類や爬虫類のそれと似た微細構造をしめす。象牙質より高石灰化であるが、結晶が大きく成長せず、エナメロイドより石灰化度は低くなる。対応する内エナメル上皮細胞には遠心側の刷子縁が認められず、エナメロイド側に比べ基質の脱却機能が弱いことが示唆される。 ガーパイクのエナメル質の有機基質が哺乳類由来のAmelogenin抗体と反応することは知られている(Ishiyama et al.,1999)。しかし、魚類エナメル質のAmelogeninについては、遺伝子の塩基配列をはじめ大部分がまだ未知の状態である。今年度は哺乳類Amelogeninの部位特異抗体を用い、光顕と電顕の免疫組織化学を行ったところ、AmelogeninのC末端と中央部に特異な抗体が硬骨魚類エナメル質基質と明らかに反応した。したがって、硬骨魚類エナメル質には哺乳類のAmelogeninのC末端と中央部にきわめて類似のドメインを持った物質が存在していることが示唆される。 哺乳類ではAmelogenin分子はエナメル質の初期結晶形成において基盤となるとされ、魚類エナメル質でも同様なAmelogeninの役割が考えられる。一方、哺乳類に比べAmelogeninの分解・脱却が不十分なため、魚類ではエナメル質結晶の成長が十分に進まず、エナメロイドほどの石灰化度を示さないことが推定される。
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