研究概要 |
1)魚類の歯胚上皮細胞、特に中でも内エナメル上皮細胞はその微細構造と非特異的ACPase、非特異的ALPase, Ca-ATPase, K-NPPase(Na/K-ATPase)の酵素組織化学の所見から、エナメロイド石灰化期から成熟期にかけてエナメロイド中の有機基質の分解と脱却、およびカルシウムとリンの輸送にきわめて積極的な役割をはたしていることが示唆された。 すなわち、内エナメル上皮細胞は石灰化期から成熟期に遠心端に膜の陥入が発達し、ミトコンドリアとACPase陽性のライソゾームを多くもつ。またこの期の内エナメル上皮細胞の細胞膜には強いALPase, Ca-ATPase, K-NPPaseの活性が存在する。このことから、ある程度分解されたエナメロイド基質が細胞内に取り込まれ、ライソゾームでさらに分解される経路、と同時にすでにエナメロイド内で分解された基質が細胞によって作り出された浸透圧勾配によって細胞間隙から外へ運び出される経路の2種が示唆される。結晶成長においては結晶周囲有機基質の除去の重要性が強調される。一方、CaとPは外側からエナメロイド中に主に内エナメル上皮細胞内を通って供給されると考えられる。エナメロイドでは石灰化期にリボン状の結晶がコラーゲン線維に沿って配列する。その後コラーゲン線維は完全に消失するが、成長した細長い結晶の束がコラーゲン線維の走行を保存した形態でこれに取って代わる。 2)硬骨魚類ガーパイクとポリプテルスにはエナメロイドと共に薄いカラーエナメル質があるが、エナメロイドより石灰化度は低い。対応する内エナメル上皮細胞には遠心側に刷子縁が認められず、エナメロイド側に比べ基質の脱却機能が弱いことが示唆される。 哺乳類Amelogeninの部位特異抗体を用い、光顕と電顕免疫組織化学を行ったところ、AmelogeninのC末端と中央部に特異な抗体がカラーエナメル質基質と明らかに反応した。したがって、硬骨魚類エナメル質には少なくとも哺乳類のAmelogeninのC末端と中央部にきわめて類似のドメインを持った物質が存在していることが示唆される。哺乳類ではAmelogenin分子はエナメル質の初期結晶形成において基盤になるとされ、魚類エナメル質でも同様なAmelogenin様物質の役割が考えられる。一方、哺乳類に比べAmelogenin様物質の分解・脱却が不十分なため、魚類ではエナメル質結晶の成長が十分に進まず、エナメロイドほどの石灰化度を示さないことが推定される。
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