研究課題/領域番号 |
16591859
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
筑波 知子 (門脇 知子) 九州大学, 大学院・歯学研究院, 助手 (70336080)
|
研究分担者 |
山本 健二 九州大学, 大学院・歯学研究院, 教授 (40091326)
筑波 隆幸 九州大学, 大学院・歯学研究院, 助教授 (30264055)
|
キーワード | 歯周病 / ジンジバリス菌 / プロテアーゼ / 生体応答 / ジンジパイン / 動脈硬化症 |
研究概要 |
P.gingivalisは、歯周病原性細菌のひとつであり、糖発酵能を持たず、強力な分解活性を示すプロテアーゼ産生する。なかでもジンジパインは本菌の示す総タンパク質分解活性のうち80%を占める主要なプロテアーゼであり、広範な生体タンパク質を分解・不活性化することから歯周病の病態に深く関与すると考えられている。ジンジパインには基質切断部位の異なるRgpおよびKgpの2つが存在する。我々はRgpおよびKgpの基質切断部位の特異性を基にこれらに対する合成阻害剤を開発してきた。KYT-1,36はそれぞれRgpならびにKgpに対して強い阻害活性を示し、KYT-41は両者を阻害するデュアルインヒビターである。KYT-1を作用させた細菌は細胞傷害性や血球凝集活性が顕著に低下し、KYT-36は細菌の増殖を抑制した。KYT-1と36の併用ではP.gingivalis培養上清中のコラーゲン、免疫グロブリンなどのタンパク質分解活性がほぼ完全に阻害され、多形核白血球による殺菌作用の障害や血管透過性の亢進も認められなくなった。KYT-41は単独で、1と36の併用と同様の効果を示した。放線菌の培養上清から精製された天然の強力なRgp阻害剤であるFA-70C1もKYT-1と同様の作用を示し、さらにマウスへin vivo投与するとP.gingivalis感染による歯肉炎の発症を有意に抑制した。最近では歯周病が心疾患などの全身疾患のリスクファクターになっていることが指摘されており、P.gingivalisの感染はアポリポプロテインE(Apo E)欠損マウスにおいてアテローム性動脈硬化発症を促進することが報告されている。我々が行った今回の研究では、確かに野生株のP.gingivalisは動脈硬化症病巣の拡大を亢進させるのに対してジンジパイン欠損株ではこのような動脈硬化促進作用が認められなかった。また、前述のKYT化合物を投与したマウスにおいても動脈硬化促進が抑制され、その効果は特にRgp特異的阻害剤であるKYT-1によって顕著であることがわかった。すなわち、P.gingivalisはジンジパイン(特にRgp)の作用を介して、全身性に影響を与え、虚血性心疾患の発症・進行に関与しているものと考えられた。さらに、これらのジンジパイン阻害剤を巧みに組み合わせて利用することによって、歯周病だけでなくこれに関連した全身性疾患の予防と治療に応用できる可能性が示唆された。
|