研究概要 |
細胞膜上には「脂質ラフト」とよばれるコレステロールとスフィンゴ糖脂質(GSLs)に富む場所が存在し、多くの受容体やシグナル分子が局在している。グラム陰性細菌の主要な成分であるリポポリサッカライド(LPS)は、骨吸収促進因子として知られており、MyD88やTRAF6を介して成熟破骨細胞を延命させる。本研究では、成熟破骨細胞においてLPSを認識する自然免疫系のシグナル分子が脂質ラフトに存在するかを明らかにし、破骨細胞の延命とシグナル伝達におけるGSLsの役割を調べた。成熟破骨細胞はLPSが存在するとよく延命する。LPSと同時にグルコシルセラミド合成阻害剤であるD-PDMPがあると延命効果は阻害された。また、LPS+D-PDMPにさらに外からGM1などのスフィンゴ糖脂質を添加するとPDMPによる阻害効果はキャンセルされた。LPSによる刺激前後の破骨細胞を回収し、1% Triton X-100含有緩衝液で細胞を破壊後、ショ糖密度勾配遠心を行った。Western blotting法によりシグナル分子の局在を調べた。LPS刺激前後でCD14,MyD88,TRAF6,IRAK4の局在の変化が認められ、LPG刺激30分後には、Triton不溶性の画分3にGM1,Flotillin,Srcや上記のシグナル分子も集積してくるのが観察された。この時PDMPを共存させるとLPS刺激30分後の画分3へのGM1,TRAF6,IRAK4の集積が抑制された。外からGM1を添加すると画分3へのGM1,TRAF6,IRAK4の集積が回復した。LPSはNF-kBを活性化させ破骨細胞を延命させる。NF-kBのp65 subunitの核移行を蛍光免疫染色でしらべた。未処理の破骨細胞では、LPS刺激30分後に核移行が確認されたが、PDMP処理を行なうと、p65の核移行が抑制され、GM1を添加するとp65の核移行は回復した。D-PDMPはLPSの延命効果を抑制すること、それはラフト形成が抑制され、NF-kBの活性化も抑えられることによると考えられる。またGM1を添加した場合は、ラフトの形成やNF-kBの活性化も回復することが明らかになった。以上のことより、LPSに対する破骨細胞の自然免疫システムには脂質ラフトやスフィンゴ糖脂質が重要な働きをしていることが明らかとなった。
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