研究概要 |
前回(平成16年度)の報告において,バソプレシン,その代謝断片及び合成類縁ペプチド(以下バソプレッシン類と略す)は記憶の増強効果があることが,動物行動実験の受動回避学習課題と空間認知課題であるMorris Water Mazeにおいて示されたが,本年度はこの記憶増強効果と近年記憶保持や成立に関与するとされる,Retrograde neurotransmitter(逆行性神経伝達物質)との関与を検討することにより,本ペプチド類の記憶増強メカニズムの作用機序解明の一端とした。(1)行動実験モデルとしては,逆行性神経伝達関与のモデルとして,プロスタグランジンE2(PGE2)欠乏を想定し,シクロオキシゲナーゼ(COX)抑制薬(NSIADs)投与したマウスを使い,Morris Water MazeとPassive avoidance testで評価すると,non-specific COX inhibitorのindomethacinやCOX-2 specific inhibitorのNS-398で課題の低下があることから,PGE2欠乏は記憶形成に関与することが窺えた。また,それを裏付けるため(2)生化学実験としてSYBER Green系を用いたReal time PCRではMorris Water Maze終了後2時間以内でCOX-2のmRNAの低下が認められることから,PGE2が記憶形成に関与しているモデルを想定製作した。このモデルにバソプレシンやバソプレシン類を投与すると,step-through type課題の向上が認められた。この結果は我々が前回報告した,バソプレシンやそのバソプレシン類縁物質が従来のアセチルコリン作動性神経を介したものだけではなく,グルタミン酸作動性神経を介し,記憶増強効果があると考えられるものである。
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