本研究では、耳下腺腺房細胞の機能について分子生物学的解析を行うことを目的として、耳下腺腺房細胞の初代培養系を確立した。ラット耳下腺組織からコラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼ処理によって腺房細胞を単離し、コラーゲンIでコートしたディッシュ上で培養を行った。その結果、刺激依存性アミラーゼ分泌能や分泌顆粒を新しく形成する能力が維持されていることを確認した。特に、耳下腺腺房細胞はβアドレナリン受容体刺激およびコリン受容体刺激両方に反応してアミラーゼ分泌が引き起こされる。さらに、2種類の刺激を同時に行うことによって著しく分泌速度が上昇する。これらの反応は腺房細胞の細胞内シグナル伝達や複雑な分泌の調節機構が存在していることを示している。初代培養細胞でも同様な反応が確認されたため、この系は本来の腺房細胞の機能を維持していると考えられる。さらに、初代培養細胞に対して、外来遺伝子の導入を試みた。その結果、カチオニックリピッドの一つであるDMRIE-C(Invitrogen)を用いて、外来遺伝子の導入が可能であることを示した。Enhanced green fluorescent proteinを融合させたVAMP2遺伝子(EGFP-VAMP2)を作成し、初代培養細胞に導入したところ、EGFP-VAMP2タンパク質の発現が見られ、しかも本来のVAMP2と同様に分泌顆粒に局在することがわかった。この系を用いることによって、耳下腺腺房細胞の刺激依存性開口放出や分泌顆粒の形成および成熟などの機能について分子生物学的解析が可能になった。
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