研究概要 |
エナメル抽出物は骨形成およびセメント質形成を誘導する。我々はマウス骨芽細胞様株細胞(ST2,C2C12,MC3T3-E1)とヒト歯根膜由来細胞(HPDL)を用いて、骨形成およびセメント質形成を誘導する生理活性物質の検索を行った。BMPおよびTGF-β特異的ルシフェラーゼレポーター遺伝子を用いた実験で、これらのレポーター遺伝子がエナメル抽出物に反応する事から、この中にはBMPおよびTGF-βが含まれていることが分かった。BMPはマウス骨芽細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)活性および石灰化を促進するが、TGF-βはこのBMPの作用を抑制する。他方HPDLではTGF-βはアルカリホスファターゼ(ALP)活性および石灰化を促進するが、BMPでは変化がない。 マウス骨芽細胞様株細胞におけるBMPの作用はレチノイン酸で相乗的に促進される。これらの細胞内シグナル伝達経路を調べるため、siRNAを用いてシグナル伝達に関与している可能性のある遺伝子の発現を阻害した。レチノイン酸の伝達経路ではα、βおよびγレセプター(RARα,β,γ)のうちRARγを阻害した時シグナルが抑制された。またBMPのシグナル伝達物質として知られているsmad1の阻害でもALPおよび石灰化が抑制された。これらの結果からsmad1を介したBMPのシグナルとRARγを介したレチノイン酸のシグナルのクロストークが存在すると考えられる。 MP阻害剤であるNogginやTGF-βの阻害剤であるSB431542を用いることにより骨芽細胞様株細胞およびHPDL細胞の分化に影響をあたえることからも、内在性のBMPやTGF-βが細胞分化に関与していることが示唆される。歯根膜中には骨、セメント質、歯根膜に分化する未分化間葉系細胞が存在し、BMP、TGF-βおよびレチノイン酸などの分化誘導因子は相互に影響しあいながらこれらの細胞に作用し、歯周組織への分化に強く関与していることが示唆された。
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