研究概要 |
本研究はラット耳下腺のin vivo開口分泌における頂端側形質膜ホスホリパーゼD(PLD)の機能解明を目的としたものである。前年度では本酵素がホスファチジルイノシトール-4,5-二リン酸(PIP_2)とホスファチジルイノシトール(PI)の量的バランスで活性調節されている可能性を指摘できたので,今年度はさらにその他の膜脂質の影響についても検討した。その結果頂端側形質膜を酵素源として用いた反応系において,PLD反応生成物であるホスファチジン酸(PA)のPLD活性促進作用を認めた。PAはPIP_2生成に重要なホスファチジルイノシトール-4リン酸キナーゼの活性調節因子として多くの報告があり,申請者らも頂端側形質膜の同酵素についてPAによる活性上昇を確認した。しかしPLD活性測定条件下では頂端側形質膜内PIP_2レベルの上昇は認められず,PAの作用はPIP_2のレベル上昇に起因するものではなかった。一方,反応系中では添加されたPAの一部が速やかに脱リン酸化されジアシルグリセロール(DAG)に変換されていた。そこで,反応系にDAGを直接添加してPLD活性に与える影響をPAの場合と比較すると,PA添加時と同等以上の活性上昇が認められた。加えて,DAGの活性化作用はプロテインキナーゼCのDAG競合型阻害剤であるCalphostin Cによって全く阻害されなかった。この結果は,PA添加時のPLD活性上昇がその代謝物であるDAGの作用に起因している可能性を示唆している。以上の結果から,PI→PIP_2のバランスシフトに加え,PLDの生成物およびその代謝産物による正のフィードバックもその活性増大をもたらす要因である可能性が示唆された。次年度からはイノシトールリン脂質およびホスファチジン酸の代謝動態とPLD活性との相関を遊離細胞系を用いてさらに検討し,PLD活性調節機構の解明をはかる予定である。
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