研究概要 |
歯根嚢胞は,IL-1などの炎症性サイトカイン刺激によって根尖周囲骨の吸収が起こり,拡大すると考えられている。そこで,本研究では,骨形成と骨吸収の両方の立場からIL-1の影響を細胞生物学的に調べた。まず骨形成に及ぼすIL-1αの影響を調べたところ,骨芽細胞は,アルカリホスファターゼの活性低下およびI型コラーゲンの発現抑制によって,骨形成能が低下することが明らかになった。破骨細胞の形成は,骨芽細胞が発現するRANKLと破骨細胞前駆細胞が発現するLANKL受容体(RANK)を介する細胞間相互作用によって行われ,RANKの発現は骨芽細胞が産生するM-CSFによって増加する』また,骨芽細胞はRANKLに対するおとりの受容体(OPG)を産生し,破骨細胞前駆細胞との細胞間相互作用を抑制して破骨細胞の形成を調節している。本研究結果から,IL-1αは,M-CSFとPGE_2の産生促進およびOPGの産生抑制によって,破骨細胞形成に積極的に関与していることが明らかになった。次に,骨芽細胞による骨マトリックスタンパク代謝に及ぼすIL-1αの影響を調べた。その結果,IL-1αは骨芽細胞によるMMP, tPAおよびuPAの産生増加とPAI-1の産生低下によって骨マトリックス代謝を促進し,かつ分解系に傾けることが示唆された。さらに,破骨細胞の機能発現に着目し,骨吸収関連酵素である炭酸脱水酵素II型(CAII),カテプシンKおよびMMP-9の発現に及ぼすIL-1α,RANKLおよびM-CSFの影響を調べた。その結果,IL-1α存在下での破骨細胞の骨吸収関連酵素の産生は,M-CSFではなくRANKLによって誘導されることが明らかになった。 以上のことより,IL-1αは,骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに,破骨細胞の形成と機能発現を促進することによって,歯根嚢胞の拡大が起こることが示唆された。
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