研究課題
基盤研究(C)
接着性レジンセメントのスーパーボンドが、生体内部で長期的にどの様に変化していくかを明らかにすることを目的として、ウマ血清中、大気中の条件下で長期間保管し、理工学的性質と生物学的性質をin vitroで評価した。理工学的性質は、1年間、3ヶ月、1ヶ月、1日保存した試料を用いて微小引張強さ(micro tensile bond strength : MTBS)とビッカース硬さを測定した。その結果セメント質のMTBSは、大気中とウマ血清中に一年保存しても大きな低下は認められなかった。ビッカース硬さは大気中に保存した方が、ウマ血清に保存するより高い傾向にあった。また保存期間が長くなると硬さは低下する傾向が見られた。生物学的性質は、同様に作製、保管した試料上に骨細胞(MC3T3-E1)を播種し1日間培養して、生体親和性を比較検討した。その結果、大気中保存、また長期保存することにより生体親和性はわずかではあるが改善する傾向が見られた。次に実験動物を用いて根尖性歯周炎を作製し、根管が汚染したまま歯根端切除およびroot-end sealingを行って3ヶ月間経過観察を行い、根尖周囲組織の変化を病理組織学的に検討した。ほとんどの症例で病巣の縮小が観察されたが、スーパーボンド表面に炎症はなく骨が近接しており、生体親和性の高さは変化していないと考えられたが、レジン表面にセメント質や歯根膜の再生は観察されなかった。In vitroの実験と動物実験の結果を総合的に考えると、スーパーボンドと象牙質との接着力は長期的に低下する可能性があるが、セメント質との接着力は大きな変化を示さない可能性が高く、スーパーボンドでroot-end sealingを行なう場合には、セメント質を含めて塗布するのが良いと考えられる。また、スーパーボンド表面の生体親和性(付着細胞数)も1年間大きな変化を示さなかったことから、レジン自体の崩壊により生体親和性が低下する可能性はきわめて低いと思われた。しかし根尖部にセメント質、歯根膜の再生は観察されなかったことより、今後は臨床的観察を含めたさらに長期的な観察、接着性レジン上に歯周組織再生の可能性を検討することが重要と思われる。
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