齲蝕病巣では局所環境の変化に応じて結晶の溶解と再沈着が常に繰り返されていることが明らかにされており、そのため、臨床においても、初期エナメル質齲蝕については、経過観察の方針に変わってきている。しかしながら、現在行われている初期エナメル質齲蝕の診断法、すなわち、白濁の有無についての肉眼的観察や実質欠損についての触診では、エナメル質齲蝕が溶解あるいは再沈着のどの方向に推移するのかを見極めることはできないため、全く新しいシステムによる齲蝕診断法の開発が望まれている。一方、従来の齲蝕処置に際しては、感染象牙質は徹底的に除去すべきとされてきた。しかし、穿下性に拡大する齲蝕では、感染象牙質除去にあたって便宜的に削除されるエナメル質も多く、その後の修復処置が困難になるため、抜髄や大規模な補綴処置が選択されることも少なくなかった。そこで本研究では、齲蝕病巣の進行と再石灰化との関係を明らかにし、その知見をもとにレーザー齲蝕診断法と新しい初期齲蝕処置法を確立することを目的として、齲蝕病巣において生ずる蛍光像について観察を行った。 本年は、以下の検討を行った。 1 齲蝕歯における自家蛍光像の観察 初期エナメル質齲蝕歯から象牙質齲蝕に至る各種の齲蝕進行ステージにおける齲蝕歯について、走査型共焦点レーザー顕微鏡を用いて、自家蛍光の観察を行い、齲蝕に伴う組織変化との関係を検討した。この結果から、それぞれの波長において、齲蝕病巣の特異的な自家蛍光反射像が認められた。 2 人工齲蝕における蛍光像の観察 S.mutansを加えた培養液浸漬および酢酸緩衝液浸漬による脱灰を行い、人工脱灰齲蝕モデルを作り、その際に生ずる自家蛍光の観察を行った。以上の結果より、S. mutansを加えた培養液浸漬例の方が、酢酸緩衝液浸漬例よりも、より強い蛍光反射を示した。このことがら、脱灰条件の違いによって、蛍光反射強度に違いが生ずることが示唆された。
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