我々は抗齲蝕に伴う歯の表面の初期変化を客観的かつ非侵襲的に診査し、その適切な対処法を知るために、齲蝕病巣から生じる特異的な蛍光反射に関しての研究を行ってきた。すなわち、共焦点走査型レーザー顕微鏡を用いて、齲蝕部の特異的な自家蛍光反射を観察するとともに、X線マイクロアナライザーによる同部位の成分変化の観察を行い、脱灰を生じている齲蝕病巣では、特異的な自家蛍光反射が観察され、この自家蛍光反射は、齲蝕の診断に役立つことを明らかにし、さらに、う蝕病巣から検出される自家蛍光へのう蝕病原性細菌Streptococcus mutans及びその産生物の関与の有無について検討した。実験歯として新鮮ヒト健全抜去小臼歯を用い、Streptococcus mutansを接種した人工う蝕モデル環境下に2週間保管し、固定、樹脂包埋し窩底深層部を含む長軸方向の厚さ50μmの薄切り切片を作製した。実体顕微鏡を用いてう蝕部の観察を行い、次に蛍光顕微鏡を用いて、各種波長での自家蛍光反射像の観察を行った。 両群とも観察に使用した3つの励起波長を用いると自家蛍光が検出されるが、MU群はエナメル質、象牙質のいずれの人工う蝕モデルにおいても赤外領域と可視領域で自家蛍光が増強し、特に赤外領域でより強い蛍光反射像が得られた。LA群のすべての波長およびMU群の紫外領域では、自家蛍光は増強されなかった。また、Streptococcus mutansの菌塊および培地成分には自家蛍光が認められなかったことから、Streptococcus mutansの存在がう蝕病巣からの蛍光反射に必須要素である可能性が示唆されたが、単にStreptococcus mutansが存在するだけでなく、同菌種と脱灰し構造変化した歯面と唾液成分などの口腔内環境の相互作用が蛍光の発生に関与している可能性が考えられる。
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