日々の臨床において幅広く用いられている、セルフエッチングシステム中のリン酸系およびカルボン酸系機能性モノマーは接着能を左右する。しかし、それらの化学的性質と歯質接着性能の関連性については十分に明らかにされていない。そこで4-methacryloxyethl trimellitic acid(4-MET)、2-methacryloxyethyl phenyl hygrogen phosphate(phenyl-P)および10-methacryloxydecyl dihydrogen phosphate(10-MDP)の機能性モノマーを用い、歯牙硬組織主成分であるハイドロキシアパタイトとの化学的結合状態、さらに抜去歯牙を用い歯質との接着界面の観察および長期耐久性について引張り試験の値を指標に検討した。 溶出カルシウム濃度は4-METCaでは1360±269 ppm、10-MDPCaでは6.79±0.43 ppm、Phenyl-PCaでは1910±137 ppmであり、10-MDPのカルシウム塩の値が他と比較して有意に小さく安定した接着が得られることが明らかとなり機能性モノマーの化学的性質の重要性を示すものと考えられる。走査および透過型電子顕微鏡による形態学的観察においては全ての機能性モノマーにおいて接着耐久性などに多大な影響を及ぼす樹脂含浸層の形成は数マイクロメータ程度であった。しかしながら、温度負荷(5℃および55℃の繰り返し)による長期耐久試験を行った結果、負荷回数0回においては各機能性モノマーにおいて有意差は認められなかったが、負荷回数が増加するに伴い、10-MDPと他の2つの機能性モノマーとの間に有意差が認められた。 以上より、10-MDPは他の機能性モノマーより歯質接着能が優れていることが化学的に明らかとなり、さらに長期耐久性試験においても歯質接着性に優れていることが裏づけられた。
|