研究概要 |
歯髄炎病変局所には多数の白血球の浸潤が見られ、歯髄炎の病変進行に深く関わっていることが示唆されている。しかしながら、白血球がどのようなメカニズムで歯髄組織へ浸潤しているかについては不明な点が多い。そこで、我々は培養歯髄線維芽細胞を用い、それらを細菌由来物質[リポポリサッカライド(LPS)、ペプチドグリカン(PGN)、リポタイコ酸(LTA)]で刺激し、好中球浸潤に関わっているとされるインターロイキン8(IL-8)発現、炎症性細胞浸潤・定着に関与しているとされる接着分子であるintercellular adhesion molecule-1 (ICAM-1)とvasucular adhesion molecule-1 (VCAM-1)発現、ならびに白血球を炎症局所に移動させるのに不可欠な血管新生に関わっているvascular endothelial growth factor (VEGF)発現について解析を行った。それぞれの分子のmRNA発現はreverse transcriptional-PCR (RT-PCR)を用い解析し、IL-8とVEGFタンパクの培養液中への産生はenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)法を用い、ICAM-1とVCAM-1の線維芽細胞表層での発現はFlow Cytometryを用い解析を行った。IL-8 mRNAとタンパクはLPS, PGNならびにLTAにより誘導され、その発現量は濃度依存的に増加した。また、VEGFタンパクもLPS, PGNならびにLTAにより濃度依存的に誘導された。ICAM-1とVCAM-1はLPSあるいはPGNにより細胞表面にその発現は増加したが、LTA刺激ではほとんどその発現は変化しなかった。これらの結果より、細菌由来物質は歯髄由来線維芽細胞から白血球浸潤に関与するとされるタンパク(IL-8,VEGF, ICAM-1,VCAM-1)発現を誘導することが明かとなった。これらのことより、歯髄炎炎症局所に存在する細菌は歯髄線維芽細胞を刺激し、白血球浸潤に関与するタンパクを発現させることにより炎症の増悪に関与していることが示唆された。さらにこれらの白血球浸潤に関与している分子発現のメカニズム、実際に白血球を用いた機能的解析、ならびに炎症歯髄組織でのこれらのタンパク、mRNAの発現に関してさらに解析を進めていく予定である。
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