私たちは、ヒト歯髄培養細胞を用いて、プロテアーゼ活性化受容体(PAR)の発現とその痛みに対する機能解析を調べ、現在まで以下のような結果を得ている。 1.細胞を歯周病原菌が産生する病原因子プロテアーゼ(RgpB)で刺激すると、神経ペプチド、サブスタンスP(SP)、カルシトニン遺伝子関連タンパク(CGRP)を誘導した。 2.ヒト歯髄培養細胞は、PAR-2のみを構成的に発現していた。 3.ヒト歯髄組織のPAR-2陽性細胞(ストローマ細胞)は、同時にSPおよびCGRPも発現していることが確認された。 4.PAR-2アゴニストでヒト歯髄培養細胞を刺激すると、神経ペプチド(SP、CGRP)を誘導した。 5.PAR-2アンチセンスオリゴヌクレオチドをトランスフェクションした歯髄細胞は、PAR-2 mRNAの発現が見られず、RgpBで誘導されるSPとCGRPの放出も減少していた。 6.細胞をRgpBで刺激すると、シグナル伝達因子extracellular signal-regulated kinases(ERK-1 and ERK-2)とp38 mitogen-activated protein kinases(MAPKs)のリン酸化を誘導したが、c-Jun NH2-terminal kinase(JNK)は誘導されなかった。 7.同刺激にて核内転写因子ATF-2およびAP-1の活性が誘導された。 以上に加え、誘発的プロテアーゼインヒビターであるNafamostatmesilate(FuT-175)のRgpBによる神経ペプチド発現誘導に対する影響を調べ、以下の結果を得た。 1.FuT-175はRgpBのタンパク分解能を濃度依存的に抑制した。 2.FuT-175はRgpBによるSPの産生誘導を抑制した(ELISAによる)。 3.FuT-175で処理した細胞は、SPに対する免疫応答を減弱させた。 これらから、ヒト歯髄細胞上に痛みに関わる受容体と考えられるPAR-2が発現しており、Rgp-Bによる神経ペプチドの発現にPAR-2が関与していることが示唆された。また、PAR-2に対するインヒビターであるFuT-175が、SP介在性の歯髄炎症性疼痛に対して鎮静作用がある可能性が示唆された。なお、今回は歯髄の組織再生については報告するまでに至らなかった。
|