難治化した感染根管の大きな原因の一つが、根管内に形成されたバイオフィルムと考えられる。そこで、根管洗浄ならびに根管消毒においては、バイオフィルムの存在を念頭においた術式や使用薬剤等の選択が重要である。バイオフィルムに対しては、抗菌薬などの効果が不十分なことが多いことから、根管拡大、形成時から、形成抑制と破壊を遂行するべきである。多糖類であるバイオフィルムが一部の酵素を取り入れることに着目し、根管洗浄に酵素を用いた場合のバイオフィルムに対する影響をin vitroで観察した。 実験的なバイオフィルムの形成 電子顕微鏡観察により、コラーゲンで被覆したセルディスク上に、本研究で用いたP.gingivalisとS.aureusがEPSを産生し、バイオフィルムを形成したことを確認した。P.gingivalisのバイオフィルムは、個々の菌体の確認が困難なほど著しい形成が認められた。S.aureusが形成するバイオフィルムは、菌体上を細い糸状のEPSが覆っていた。 酵素によるバイオフィルムの形成抑制効果 1%ならびに2%ペクチナーゼ含有BHIブロス内では、各細菌のEPSの産生はコントロール群に比較して、少なくなるのが観察された。すなわち、P.gingivalisとS.aureusによるバイオフィルムの形成に抑制効果が認められた。他の酵素(デキストラナーゼ)には、形成抑制効果は認められなかった。 酵素によるバイオフィルムの破壊効果 酵素含有培地での24時間の培養では、各細菌ともにEPSの形態に明らかな変化は認められず、各種酵素(1%〜2%)には、P.gingivalisとS.aureus由来のバイオフィルムに対する破壊効果は認められなかった。 ペクチナーゼのみに、バイオフィルムの産生抑制効果が認められたことは、EPSの多糖類に影響を与えたと推察される。また、EPSは由来菌種によって種々の相違点を示すことが報告されているが、今回ペクチナーゼが各菌種由来のEPS産生を抑制したことから、産生過程においてペクチナーゼの阻害的影響が関与していると考えられる。
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