研究概要 |
本研究は高齢者の義歯治療の診断ストラテジーを作成することを目的として,義歯治療成績を縦断的に調査し,義歯使用に影響を及ぼす因子を評価することで義歯治療の適応を診断する指標を確立することとした。 まず,療養型医療施設に入院中の高齢者107名を被験者として選択し,実際に義歯治療を行い,ADLや義歯の自立装着などと義歯の使用状況との関係を検討した。診査項目として,ADL,義歯の種類,旧義歯の有無,義歯の着脱,意思の疎通,義歯治療後6ヵ月の使用状況などを選択した。新義歯装着6ヵ月後にその使用状況と使用の可否に影響を及ぼす臨床的因子を検討したところ,約70%の者が義歯を使用しており,この使用に意思疎通の有無が有意に関係していた。この結果から神経心理学領域での認知機能の評価などの詳細な検討が必要となった。 そこで,別の療養型医療施設に入院中の高齢者101名を被験者として選択し,実際に義歯治療を行い,認知機能などと義歯の使用状況との関係を検討した。診査項目として,意識レベル,ADL,認知機能(MMS, HDS-R),義歯治療後6ヵ月の使用状況などを選択した。新義歯装着6ヵ月後にその使用状況と使用の可否に影響を及ぼす臨床的因子を検討したところ,意識レベルが低下するにつれ義歯使用者数は有意に減少していた。また,義歯使用者と不使用者の認知機能のスコアには有意な差があり,その境界はMMSで14/15点,HDS-Rで8/9点であった。 以上の結果より,要介護高齢者に義歯治療を計画する際,あらかじめ患者の意識レベルや認知機能を評価することにより,義歯使用の可否を予測できることが示唆された。
|