研究概要 |
総義歯を装着する無歯顎者において,義歯の構成要素としての人工歯列が,摂食・嚥下機能動態にどのように関わり,嚥下機能にどのような役割を果たすかを調べるために,実験計測システムを構築し,計測データを収集し,分析した。 具体的には,無歯顎者の指示嚥下ならびに自由咀嚼嚥下時において,義歯人工歯列の有無と義歯の咬合高径によって違いが生じる下顎の固定や口腔容積が,嚥下動態にどのような影響を及ぼすかを,咬合力,舌圧,筋活動,下顎運動,喉頭挙上の動きを計測して比較検討するシステムを構築して,実験協力被験者の計測を行ってきた。まず,咬合高径と人工歯の有無を変更できる実験義歯に,咬合力と舌圧の計測のための圧力センサーを,第1大臼歯咬合面に1カ所,口蓋中央前方と後方,口蓋側方の前方と後方に設置した。さらに,筋活動は咬筋と舌骨上筋群の筋放電と積分値,喉頭挙上運動は加速度ピックアップセンサー,下顎運動はMKGによってその垂直方向成分のみとして,合計11チャンネルを同期して計測した。また,被験食品は,水,プリン,コンビーフの3種とし,水とプリンは指示嚥下で,コンビーフは自由咀嚼嚥下での計測を行った。 その結果,人工歯列のある場合よりも人工歯列の無い場合のほうが,咬合高径の低い場合よりも高い場合の方が,4カ所の舌圧,咬筋,舌骨上筋群の筋活動はともに小さくなったが,嚥下開始から喉頭挙上運動が始まるまで時間は,長くなった。したがって,人工歯列が無い場合には,舌筋や咬筋,舌骨上筋の活動は小さくなり,嚥下運動自体が遅くなることを示していると考えられた。また,嚥下時に咬合しないで嚥下する被験者が認められたことから,有歯顎者についても調べる必要があると考えられた。
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