研究概要 |
閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)に対して良好な効果をもたらす下顎前方移動量を求めるための基礎データとして,正常者において前方移動量と姿勢位を変化させた際の呼吸に及ぼす影響について検討した.被験者は,頭頸部,呼吸器の異常や日中傾眠を認めない成人15名(男性9名,女性6名,平均年齢28.7歳)とした.下顎位は上下中切歯切端間距離12mmの開口状態で0%前方位(0%F),50%前方位(50%F),75%前方位(75%F)の3顎位とした.計測には電子スパイロメータを用いた.姿勢位(座位,仰臥位,側臥位)と下顎位(0%F,50%,75%F)を全7パターン各3回ずつの努力呼吸を行わせ,最大中間呼気速度(FEF25-75)と最大中間吸気速度(FIF25-75)を計測し,比較した.下顎最前方位までの平均移動量は10.3±3.31mmであり,各下顎位の平均前方移動量は50%Fが,5.17±1.66mm,75%Fが7.75±2.49mmであった.得られたデータを座位0%Fに対する百分率で表し検討したところ,下顎位の変化について有意差は認められなかった.姿勢位の変化については座位より仰臥位と側臥位が有意に減少していた(P<0.05).吸気では仰臥位と側臥位間に有意差は認められなかったが,呼気では側臥位の方が有意差をもって高値を示した(P<0.05).正常者では下顎位の変化がFEF25-75,FIF25-75にあまり影響を及ぼさないことからOSAS患者についても同様であれば,顎関節部への副作用を軽減する少ない前方位量でも十分な治療効果が期待できることが示唆された.姿勢位の変化について側臥位の場合に呼気においては有意差をもって高値を,また吸気についても高値を示す傾向が示されたことは過去の報告を支持する結果と言える.
|