これまでに、咀嚼・嚥下にかかわる皮質活動についてはf-NIRSを用いた検討を行ってきた。本年度は、前頭の活動性に着目して検討を行った。前頭皮質は認知、情動、感覚・運動の統合といった高次脳機能にかかわる。咀嚼時の後頭皮質活動は口腔内の食塊認知とかかわるものと考えられる。そこで、健常者ならびに口腔感覚異常者を被検対象として、咀嚼時の脳機能ならびに顎機能検査を、脳血流計測装置(ETG100 HITACHI)ならびに顎運動解析装置(MKG-K6I)/筋電図解析装置(Bio-Amp NEC)を用いて行った。脳血流の計測では被験者の前頭皮質領域にプローブ(22CH〜24CH)を装着した。咀嚼時の前頭皮質活動は両側の背外側前頭前野に有意な活動性を示した。また、咀嚼の想起によっても、同様の活性パターンが示された。一方、局所麻酔による実験的口腔感覚の遮断によっても前頭皮質の活動性は有意に低下した。欠損補綴患者の義歯治療によって咀嚼時の前頭皮質活性は上昇した。さらに本年度には、口腔感覚の異常を執拗に訴える患者を対象に脳血流ならびに咀嚼筋機能検査を行ったところ、精神疾患に随伴すると考えられる低活性が前頭皮質に確認された。この結果は、口腔感覚異常を自覚する精神疾患患者における咀嚼の質の低下を反映すると考える。 以上のことから、とくに本年度は健常者ならびに口腔感覚異常者を対象として、それぞれの咀嚼時前頭皮質の活性を明らかとした。
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