本研究はA170遺伝子の頭蓋顎顔面領域の骨疾患における役割を調べるために、Paget骨病の3型の原因遺伝子であるA170遺伝子ノックアウトマウスをもちいて個体レベルで骨病変の成因を調べるのが目的である。 本年度は以下のような研究を進めた。 骨形態計測:前年度までに、骨形態計測をおこなったが、ばらつきが多かったため、バッククロスを繰り返したのち、再度計測おこなったところ、静的パラメータでは類骨面、類骨厚、吸収面、破骨細胞面骨梁数、動的パラメーターでは、石灰加速度、骨成長速度などで有意な差が見られ、ノックアウトマウスでは、骨の形成が落ちていた。 骨の細胞レベルでの分析:ノックアウトマウスとワイルドタイプマウスの胎児頭蓋冠より骨芽細胞を分離培養し、アルカリフォスファターゼ活性、アリザリンレッドによる染色による石灰化能の評価などをおこない、骨芽細胞の分化について検討したところ、ノックアウトの骨芽細胞ではアルカリフォスファターゼ活性、アリザリンレッド染色ともノックアウトマウスでは低い傾向が見られた。 インスリン感受性の分析:肥満による脂肪の増大にインスリンシグナルの異常が予測されたため、グルコース負荷試験でグルコース2mg/gを腹腔内投与し、30分、1時間、2時間、で血糖値の変動をみたところ、A170ノックアウトではインスリン抵抗性が落ちていた。また血中のインスリンの値を測定したところ、有意に高値であり、A170遺伝子ノックアウトマウスは、インスリン抵抗性が上がっていることが示された。さらに脂肪細胞と横隔膜の横紋筋をエクスプラントの培養系でインスリンを投与しアイソトープラベルした2DGでグルコースの取り込みを測定したしたところノックアウトの組織でのグルコース取り込みが下がっていた。 以上から、A170遺伝子ノックアウトマウスの病態は、骨芽細胞の異常が起きており、インスリンシグナルの異常が関与する可能性が示唆された。
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