本研究はPaget骨病3型の原因遺伝子であるA170遺伝子の頭蓋顎顔面領域の骨疾患における役割を調べるために、A170遺伝子ノックアウトマウスをもちいて骨病変の成因を調べるのが目的である。 当初、マウスのバックグラウンドが統一されておらず、骨形態計測のばらつきが多かったため、C57BL/6Jとバッククロスを繰り返した。その間に、A170遺伝子の上流にある転写因子Nrf2のノックアウトマウスのフェノタイプ解析をおこない、A170遺伝子ノックアウトマウスの骨に現れるフェノタイプを予測した。また、A170遺伝子と同じNrf2の制御をうける酸化ストレスタンパク質Peroxiredoxin Iノックアウトマウスの生体内での活性酸素の消去能について測定し、A170欠失時の生体内での活性酸素の影響の検討の準備段階とした。 バックグラウンドがそろったところで骨形態計測をおこなったところ、類骨面、類骨厚、吸収面、破骨細胞面骨梁数、石灰加速度、骨成長速度などで有意な差が見られ、ノックアウトマウスでは骨の形成が落ちていた。マウスの胎児頭蓋冠より骨芽細胞を分離培養し、アルカリフォスファターゼ活性、アリザリンレッド染色による石灰化能の評価をおこなったところノックアウトの骨芽細胞では低下傾向が見られた。また、A170遺伝子ノックアウトマウスは過食による肥満を起こすことがわかり、肥満による脂肪の増大にインスリンシグナルの異常が予測されたため、グルコース・インスリン負荷試験をおこなったところ、インスリン抵抗性が上がっていた。脂肪と横隔膜の横紋筋をエクスプラントの培養系で2DGでグルコースの取り込みを測定したしたところノックアウトの組織ではグルコース取り込みが下がっていた。以上から、遺伝子ノックアウトマウスの病態は、骨芽細胞の異常が起きており、インスリンシグナルの異常が関与する可能性が示唆された。
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