研究概要 |
Ganzらにより、好中球アズール顆粒中に1985年始めて見い出されたヒトα-デフェンシンとHarderらにより見い出されたヒトβ-Defensinは、非免疫的で最も緊急な生体防御ペプチドであるため、移植組織の生着効率のカギを握っている物質の一つと見なされている。今回、われわれは、口腔癌悪性度診断マーカーとしてのデフェンシンの確立をめざすとともに、再生、再建のための自家移植組織の生着の妨げにもなりうるデフェンシンの発現抑制などを目的として研究を行う。 (1)マウスを用いて癌の浸潤モデルを作成しHBD-2,HBD-3の周囲組織細胞への抑制作用の検討 われわれは、モデルとして正常マウスおよびヌードマウスに人癌細胞株を移植して癌の浸潤モデルを作成する事に成功しており,平成16年度は癌細胞におけるデフェンシンの経時的な発現の様式をin situ hybridization法によりHBD-2,HBD-3の遺伝子発現を,その後に生じるペプチドの局在を免疫組織学的手法により検出するとともにデフェンシンの発現により生じる周囲正常組織への影響を病理組織学的に検討している。 (2)in vitroでのHBD-2,HBD-3のセルサイクルに与える影響に関する基礎的な研究 われわれは、HBD-2(0.01mM)の存在下ではヒト由来ケラチノサイト(NHEK)のDNA合成は影響を受けないが,分裂活性が低下することが明らかにしてきた。これはセルサイクルにおいてS期には影響しないがM期に移行することを阻害する事で分裂活性の低下を引き起こすことが解明されたが,その詳細は未だ不明な点が多い。分裂活性が低下したNHEK細胞株はアポトーシスとは異なる細胞死を迎える事が示唆されたため,上皮の分化マーカーであるインボルクリンおよび数種類のサイトケラチン抗体を用いてHBD-2,HBD-3に暴露されたNHEKが細胞死を起こすまでに生じる細胞の変化を検討している。
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