顎関節症や口腔顔面痛を有する疾患の治療法の一つとして、近年、各種光線療法が多用されている。直線偏光赤外線治療器による咀嚼筋部および星状神経節周囲照射は、非侵襲的でかつ安全な治療法として多くの施設で行われており、その有効性が報告されている。われわれは、これは下行性系疼痛抑制系機能の賦活であろうと考えた。そこで本年度はその基礎データを採取すべく正常者における咀嚼筋部および星状神経節周囲への直線偏光赤外線の照射が、咀嚼筋照射部の各種感覚・侵害刺激受容閾値にそれぞれどのような影響を与えるのかを調査/比較した。無症候の女性を被検者とし、市販のスーパーライザーTMを用いて、右咬筋中央部に広範囲用Cタイププローブにて出力80%で7分間の持続照射およびスポット照射用SGタイププローブにて出力80%(1秒ON:4秒OFF)での反復照射を行った。照射前後における咬筋相当部皮膚の1)振動覚閾値、2)冷覚閾値、3)温覚閾値、4)冷痛覚閾値および5)温痛覚閾値を調査・比較した。さらに、照射前後の各種バイタルサイン(血圧、脈拍、体温、酸素飽和度)も比較した。その結果、1)咀嚼筋部照射および星状神経節周囲照射のいずれにおいても振動覚閾値が低下した。2)両照射とも照射後の温痛覚閾値は有意に上昇した。しかしながら、その上昇度は咀嚼筋部照射の方が大きかった。3)いずれの照射法でも、照射前後の各種バイタルサインに変化はなかった。以上より、直線偏光赤外線による咀嚼筋部および星状神経節周囲照射はいずれも主にC線維で介在される温痛覚閾値を上昇させ、Aβ線維で介在される照射部位の振動覚閾値を低下させることが考えられた。従って、これらの照射法は同じ作用機序である可能性が示唆された。しかしながら、その程度は咀嚼筋部照射の方が強いことより、咀嚼筋の疼痛緩和には、星状神経節よりも直接咀嚼筋に照射したほうが本実験条件下では有用であると考えられた。次年度は、顎関節症患者さんに本法を応用し、比較投稿予定で現在もデータを採取中である。
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