研究概要 |
障害者の歯科治療において問題となることは、診療への適応行動が得られ難いことである。そのため,患者の発達レベルに対応した行動調節法や、薬理学的行動調節法(笑気吸入鎮静法、静脈内鎮静法,全身麻酔法)を用いて歯科治療を施行する事が多い。しかし、精神鎮静法や全身麻酔法を用いても、歯科治療は患者にストレスを与えており、その侵襲の程度によっては、鎮静や麻酔深度に変化が生じることがしばしばある。近年、ストレスを示す指標として、自律神経活動の評価法の一つである心電図RR間隔変動の解析が応用されている。今回われわれは、障害者を対象(N=8)に全身麻酔下での歯科治療時における心舶変動の低周波成分の積分値(以下、LF-RR)、心拍変動の高周波成分の積分値(以下、HF-RR)、心拍変動のLF成分とHF成分の積分値の比(以下、LF/HF-RR)、収縮期血圧変動のLF成分の積分値(以下、LF-SBP)、収縮期血圧(以下、SBP)、拡張期血圧(以下、DBP)、心拍数(以下、HR)の周波数解析から、歯科治療が自律神経活動へ及ぼす影響について調査した。 (結果) 1.SBP、DBP、HRに各処置による変動は認められなかった。 2.LF-RRは、局所麻酔注入時および印象採得時、咬合採得時に有意差が認められた。 3.HF-RRは、局所麻酔注入時に有意差が認められた。 4.LF/HF-RRは、局所麻酔注入時および印象採得時、咬合採得時に有意差が認められた。 5.LF-SBPは、局所麻酔注入時および印象採得時、咬合採得時に有意差が認められた。 これらのことから、SBP、DBP、HRに変化がみられなくても、患者は局所麻酔注入および印象採得、咬合採得をストレスとして受けとっていると考えられた。SBP、DBP、HRの測定だけでは、患者がこうむるストレスを反映するのに不十分と思われた。一方、患者がこうむるストレスを反映するのにLF-RRおよびHF-RR、LF/HF-RR、LF-SBPの測定は適している。
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