研究概要 |
本研究では、扁平上皮癌細胞の腫瘍抗原であるSCC抗原遺伝子をプロモーターとするSCC抗原作動型遺伝子導入法を開発するとともに、膜貫通領域を欠失し、チロシンリン酸化によるシグナル伝達能を持たない可溶型VEGFR-3を発現・産生させることによりVEGF-VEGFR系を標的としたリンパ管新生阻害療法を開発することを目標としている。そのために我々は、口腔扁平上皮癌細胞株NAおよびHSC4を用いて、これら癌細胞におけるVEGFファミリーの発現状況をRT-PCR法にて解析した。その結果、両細胞株ともにVEGF-CおよびVEGF-Dを発現していた。また、両細胞株ともにVEGFRの発現は認められなかった。一方、癌の浸潤転移成立機構において、癌細胞と間質細胞の相互作用が重要な働きを担っている。VEGFの発現調節機構の上流にはMetが存在し、そのうちc-Metは間質細胞の産生するhepatocyto growth factor(HGF)のレセプターとして細胞内情報伝達機構を誘導する。そこで、両細胞株のc-Met発現状況をRT-PCR法にて解析したところ、両細胞株ともにc-Metを発現していた。また、我々は生体における腫瘍内部の低酸素環境に応答する転写因子HIF-1αに着目し、ハイポキシア・チャンバー内で培養した口腔扁平上皮癌細胞株がHIF-1αを高発現すること、その下流にあるVEGFおよびc-Metが高発現すること、およびシクロキシゲナーゼ(COX)-2の発現増強を見いだした。c-Metの下流には癌細胞浸潤の中心的役割を担う細胞外基質分解酵素MMP群が存在している。そこで分子標的としてのCOX-2に注目し、COX-2アンチセンス遺伝子導入による癌細胞浸潤能への影響を検討した結果、MMP-2,9およびMT-1MMPに加え、接着蛋白CD44の発現抑制を認めた。現在、SCC抗原作動型遺伝子導入法を用いて、扁平上皮癌による可溶型VEGFR-3産生を目指すとともに、c-Metを標的としたVEGF産生抑制による癌浸潤制御療法を検討中である。
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