研究概要 |
瞳孔は従来,脳の賦活,認識過程や注意などに関する情報を提供しているとされている。そのためBeattyらは,瞳孔を「a window to the brain」と称し,心理学の分野では様々な研究が行われてきた。その一方で瞳孔は痛み刺激で瞬時に散大し,また麻薬性鎮痛薬の投与で縮小する事が知られている。 一般にヒトを対象にした痛みや認識,注意等の研究にはその客観的指標として,体性感覚誘発電位(SEP)や随伴陰性変動(CNV)などが用いられてきた。しかしこれらは準備に正確さ,時間および場所を要し,必ずしも臨床に即したものとは言えない。最近,Chapmanらは痛み刺激により生じる瞳孔散大反応は痛みの客観的指標になりうると報告した。 これまでの瞳孔の研究では,規則的な痛みによって生じる瞳孔散大反応は刺激約1.2秒後で最大となる。またこの反応は痛みという感覚のみで生じるものでもtask demandのみで生じるものでもない。さらに鎮痛下のみならず鎮静下でもその振幅を減少させる事が判明している。これらのことから瞳孔反応は、防御反応のような極めてユニークな反応であることが示唆されている。 もしこの瞳孔散大反応が防御反応なら、予測出来ない刺激を感じた場合、予測出来る場合より反応は大きくなる。そして意識の低下や集中力の低下を来した場合、反応は小さくなるはずである。 そこで本年度は、予測可能な痛み刺激と予測不可能な痛み刺激を与えた場合、瞳孔径がどのように変化するかを測定した。 対象:当初予定の対象数40名のうち、10名の健康成人を用いた。被験者に、予測可能な痛み刺激として、A:強度の異なる2種類の痛み刺激をそれぞれ10秒間隔、予測不可能な痛み刺激として、B:強度の異なる2種類の痛み刺激をランダムに10秒間隔 C:強度の異なる2種類の痛み刺激をそれぞれ5〜20秒間隔 D:強度の異なる2種類の痛み刺激をランダムに5〜20秒間隔 の4種類を与えた。 その結果、Dの瞳孔散大反応が、Aに比べて大きくなった。 本研究より、瞳孔散大反応は、痛み刺激に比例することより、痛みの客観的指標になり、また防御反応のような反応の可能性が高いことが示唆された。
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