研究概要 |
瞳孔は従来,脳の賦活,認識過程や注意などに関する情報を提供しているとされている。そのためBeattyらは,瞳孔を「a window to the soul」と称し,心理学の分野では様々な研究が行われてきた。その一方で瞳孔は痛み刺激で瞬時に散大し,また麻薬性鎮痛薬の投与で縮小する事が知られている。 一般にヒトを対象にした痛みや認識,注意等の研究にはその客観的指標として,体性感覚誘発電位(SEP)や随伴陰性変動(CNV)などが用いられてきた。しかしこれらは準備に正確さ,時間および場所を要し,必ずしも臨床に即したものとは言えない。最近,Chapmanらは痛み刺激により生じる瞳孔散大反応は痛みの客観的指標になりうると報告した。 これまでの瞳孔の研究では,規則的な痛みによって生じる瞳孔散大反応は刺激約1.2秒後で最大となる。またこの反応は痛みという感覚のみで生じるものでもtask demandのみで生じるものでもない。さらに鎮痛下のみならず鎮静下でもその振幅を減少させる事が判明している。これらのことから瞳孔反応は、防御反応のような極めてユニークな反応であることが示唆されている。 もしこの瞳孔散大反応が防御反応なら、予測出来ない刺激を感じた場合、予測出来る場合より反応は大きくなる。そして意識の低下や集中力の低下を来した場合、反応は小さくなるはずである。 平成16年度は、被験者に、予測可能な痛み刺激と、予測不可能な痛み刺激を与え、瞳孔径の変化を測定した。その結果、予測不可能な刺激の方が、予測可能な刺激より、瞳孔散大反応は大きくなった。 平成17年度は、鎮静下特にプロポフォール投与下での瞳孔散大反応を5名の健康成人を被験者比較した。その結果、瞳孔散大反応は、プロポフォール投与下で、弱くなる傾向がみられた。 これらのことより、痛み刺激に誘発される瞳孔散大反応は、痛みの客観的指標になり、鎮静状態の指標にもなりうることが示唆された。
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