研究概要 |
瞳孔は従来,脳の賦活,認識過程や注意などに関する情報を提供しているとされている。また痛み刺激で瞬時に散大し,また麻薬性鎮痛薬の投与で縮小する事が知られている。 これまでの瞳孔の研究では,規則的な痛みによって生じる瞳孔散大反応は刺激約1.2秒後で最大となる。またこの反応は痛みという感覚のみで生じるものでもtask demandのみで生じるものでもない。さらに鎮痛下のみならず鎮静下でもその振幅を減少させる事が判明している。我々は、笑気を吸入させた場合、30%および50%で、その振幅が減少することを報告している。(clinical neurophysiologyに投稿中、現在revised中)これらのことから瞳孔反応は、防御反応のような極めてユニークな反応であることが示唆されている。 もしこの瞳孔散大反応が防御反応なら、予測出来ない刺激を感じた場合、予測出来る場合より反応は大きくなる。そして意識や集中力の低下を来した場合、反応は小さくなるはずである。 我々は、まず被験者に、予測可能な痛み刺激と予測不可能な痛み刺激を与え、瞳孔径の変化を測定した。つまり、予測可能な痛み刺激として、A:強度の異なる2種類の痛み刺激をそれぞれ10秒間隔、予測不可能な痛み刺激として、B:強度の異なる2種類の痛み刺激をランダムに10秒間隔 C:強度の異なる2種類の痛み刺激をそれぞれ5〜20秒間隔 D:強度の異なる2種類の痛み刺激をランダムに5〜20秒間隔 の4種類を与えた。 その結果、予測不可能な刺激Dは、予測可能な刺激Aより有意に瞳孔散大反応は大きくなった。 さらに、プロポフォール投与下での瞳孔散大反応を測定した。その結果、瞳孔散大反応は、プロポフォール投与下で、その振幅が小さくなる傾向がみられた。また強い刺激を行った場合、鎮静の指標であるBispectral Index(BIS)値と、体性感覚誘発電位(SEP)、Visual Analogue Scaleおよび瞳孔散大反応との間には有意な相関がみられた。これらのことから、瞳孔散大反応は、防御反応の可能性が高いことが示唆された。
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