側面位頭部エックス線規格写真分析により骨格性下顎前突症と診断された20名の日本人成人(年齢範囲18歳7か月〜42歳3か月)を被検者とした。各被検者に対して、マルチディテクターCTスキャナーを用いて、スライス厚1.25mm、スライス間隔0mmで下顎骨のCT画像を記録した。実効スライス厚0.5mmで再構成したCT画像データの3次元再構築を行い、3次元画像解析用ソフトウェアを用いて、下顎骨の正中矢状平面を決定した。正中矢状平面上で、下顎左側中切歯および同部歯槽骨について以下の変量を計測した。角度計測項目については、下顎下縁に対する唇舌的角度を計測した。距離推定項目については、歯根の中点を中心とした円弧上の距離を計測した。その結果、下顎下縁に対して、中切歯が舌側へ傾斜しているほど同部歯槽骨も舌側へ傾斜していること、中切歯が舌側へ傾斜しているほど同部海綿骨が唇舌的に薄いことが明らかとなった。また、下顎中切歯歯根尖から唇側皮質骨内面までの距離と、舌側皮質骨内面までの距離の比は約3:7で、歯根尖は海綿骨内で有意に唇側に位置していた。本研究結果より、骨格性下顎前突症において、矯正歯科治療を行う場合、骨格型をカムフラージュするために下顎中切歯を舌側傾斜することは、歯根の位置を考慮すると困難であることが示唆された。一方、外科的矯正治療を行うための術前矯正治療において、舌側傾斜している下顎中切歯を唇側へ傾斜移動することは、ある程度は許容されると考えられた。しかし、下顎中切歯の舌側傾斜の程度が大きい場合は、下顎結合部の歯槽骨は唇舌的に薄く、歯槽骨内で下顎中切歯を唇側へ傾斜移動できる距離は小さいと考えられた。このように、切歯の唇舌方向への移動を効率良くかつ安全に行うためには、切歯の傾斜角度、同部歯槽骨の傾斜角度および海綿骨内での歯根の位置を正確に記録し、評価することが重要であると考えられた。
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