歯周病の初発部位である歯肉の付着上皮(JE)部には、神経ペプチドのサブスタンスP(SP)を含有する感覚神経末端が密に分布している。また歯肉溝滲出液(GCF)の中にはSPが含まれており、歯肉炎、歯周炎患者のGCF中のSPのレベルは健常者と比較して有意に高いとの報告や、歯周治療前と比較して治療後にGCF中のSPの量が減少するとの報告がある。本研究は、ストレスが歯周病に対する関与を神経ペプチドの作用の面から分析することを目的としており、昨年度の研究で、歯周病罹患時にGCF中に増加するSPをラットのJE部に局所投与し、歯周病の初期に病変部に遊走してくる好中球に着目してin vivoの解析を行い、その結果、SP局所投与15分後をピークに好中球数が増加し、その後徐々に投与前と同じレベルに減少することが確認され、GCF中のSPが増加した状態では、JE部の好中球数が一過性に増加している可能性が示唆された。そこで今年度の研究で、好中球数増加のメカニズムについて解析を行った。好中球数の浸潤に肥満細胞からの腫瘍壊死因子α(TNF-α)が関与している可能性があるため、JE直下の結合組織における肥満細胞の分布の状態を観察した。ラットの歯肉頂部に綿糸を静置し、綿糸に生理食塩水で希釈したSPをマイクロピペットで滴下する方法でJE部にSPを局所投与し、好中球はDAB反応により細胞内のアズール顆粒を可視化することで、また肥満細胞はトルイジンブルー染色を行い細胞内の顆粒のメタクロマジーをマーカーとして分析を行った。その結果、SPがJE直下の肥満細胞を活性化することでJE内の好中球数の増加に関与している可能性が示唆された。本研究によりストレスと関連づけられているSPが、JE内の好中球数の遊走促進に影響を与えている所見が得られ、JEにおける歯周病の発症および進行に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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