自然免疫において重要な役割を果たすカテリシジンファミリーの抗菌ペプチドであるCAP18に着目し、歯周病原性細菌に対する抗菌効果をまず検討した。その結果、CAP18は有力な成人性歯周疾患原因細菌であるPorphyromonas gingivalisに対し強い抗菌活性を示した。一方、口腔内におけるCAP18の主要な供給源は口腔上皮であることが知られている。よって次に口腔上皮系細胞を用い、同細胞からのCAP18産生に関わる要因について検索を行った。その結果、細胞株間に明らかな産生の強弱が認められた。特にCa9-22細胞は自発的にCAP18を強力に産生していたが、これとは対照的にKB細胞は全くCAP18を産生していなかった。また、遺伝子レベルで検索したところ、KB細胞における自発的CAP18-mRNAの発現は認められなかった。このことは細胞株間において自然免疫能力の差異を示すものであり、口腔における歯周疾患の感受性の個体差を知る上で重要な知見である。さらに、Ca9-22細胞からのCAP18産生はオステオトロピックなサイトカインであるTNF-αによって強く誘導されることを見い出した。特に、TNF-αは強力な骨吸収因子として知られる歯周疾患の増悪因子であるが、これとは逆に生体を更なる細菌感染から防御する抗菌タンパクの産生誘導作用を持つことが示された。このことは、炎症性サイトカインの歯周局所における役割を考察する上で興味ある。さらには、このCAP18が抗腫瘍活性があることも見い出し報告した。 一方、ヒトにおける唾液中CAP18濃度を測定したところ、ドナー間に差を認めた。しかしながら、対象者は全て40歳以上であり歯周疾患有病者であることから臨床像との比較はできなかった。よって今後は若年者における唾液中CAP18濃度を測定し、前向きコホート研究を行う計画である。
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