死体から正確に年齢を求めることは、初期の身元確認において、極めて重要である。 象牙質中のD-アスパラギン酸は、加齢に伴いラセミ化反応によりほぼ規則的に増加する。我々は歯からの年齢推定にこれを利用し、良好な結果を得ている。そこで、焼死体の歯からの年齢推定を試み、正確な年齢を算出できるか否か検索した。 ラセミ化反応は化学反応で環境に左右され、とくに熱に強く影響を受ける。このため、焼死体の歯からの推定年齢は、実年齢より高く算出される可能性が高い。とくに、歯の表面が変色している場合は、不可能であった。そこで、焼死体の歯を想定し、加熱実験から象牙質のD-アスパラギン酸と色度(値)を測定した。 歯は象牙質のみをカッターで分離し、洗浄、乾燥後、粉末化(74-297μm)した。加熱は試験管に試料を20mg入れ、アルミブロックヒーターで100℃から140℃で、30分から90時間行った。色度値は、現在もっとも用いられているL^*a^*b^*表色系を使用した。また、a^*とb^*から彩度(C^*)も算出した。D-アスパラギン酸は通法に従いGCにより、L-アスパラギン酸との比率、ラセミ化率で求めた。 その結果、非加熱歯および加熱歯のL^*、a^*、b^*、C^*それぞれの値を求めたところ、ラセミ化率とC^*との相関がもっとも高く(r=0.965)認められた。これらのことから、焼死体の歯からの推定年齢は、肉眼で明らかに変色が見られた場合でも、対照歯と焼死体の歯のC^*とラセミ化率を測定することにより、増加したC^*から本来のラセミ化率を推定し、正確な年齢を算出できる可能性が示唆された。
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