研究概要 |
歯周病の発症や病状の進行にはかなりの個体差がみられることから、遺伝的な素因の関与が疑われるが、生活習慣などさまざまな因子が存在することもあって、原因遺伝子についての検索は必ずしも容易ではない。近年、一塩基多型(SNPs)解析を用いた成人性歯周病発症遺伝子の検索が行われるようになり、HLA classII抗原遺伝子、CD18遺伝子、IL-1遺伝子等が歯周病発症遺伝子として示唆されている。一方、染色体異常であるダウン症候群患者においては、歯周病が早期から急速に進行することや、他の精神遅滞患者と比較して歯肉結合組織の接着性が低下傾向にある事が報告されており、以上によりダウン症候群患者の染色体異常に伴う内的要因として歯周病発症の原因のひとつではないかと考えた。本研究は、ダウン症候群患者の歯周病発症との関連が予想される遺伝子を検索し、PCR-RFLP解析を用いて歯周病発症遺伝子の発見を目的とした。 ダウン症候群患者28名に対して歯周病をスクリーニングし、インフォームドコンセント後、舌表面剥離細胞からDNAを抽出した。現在までに、炎症性サイトカインであるIL-1A,IL-1B及びLPS(リポ多糖類)の受容体であるTLR2,TLR4についてSNPs解析を行ったところ、差に有意性は認められなかった。この結果についてのレポートは、現在雑誌投稿中である。また、線維芽細胞増殖因子の受容体であるFGFR1、白血球の接着・走化性に関与する細胞接着分子インテグリンについて同様な解析を行ったところ、差に有意性は認められなかった。歯周病原因菌に抗菌活性がある抗菌性ペプチド、ディフェンシンはダウン症候群患者と健常者間で差に有意性が認められたが、歯周病発症遺伝子としての特定は出来なかった。 現在、他のサイトカイン、ペプチドおよび補体系関連分子などの遺伝子検索及び解析を詳細に行っている。 今後は、多型のみられた遺伝子のタンパク質発現量を測定し、転写活性の変化を確認していく予定である。
|