日本の救急医療システムは、その地域の特性によって形態を異にしていること、また対象の特性より救急初療以降の療養が継続されることより、構造指標や結果指標によって判断することは妥当ではなく、過程指標に着目した。過程指標はケアを提供する行為や環境、患者と看護師の相互作用を評価と視点として捉えているが、本研究では、二次・三次救急患者が救急外来において看護師から受けたケアをどのように捉えているのか、全身状態が安定したことを確認した後聞き取り調査を行った。対象者(心臓・血管系に障害をもつ患者)が回想しながら語った事柄は、看護師から受けたケアと言うよりも当時の対象者自身の体験に集約された。聞き取り調査の内容を記述化してグラウンデッドセオリーアプローチによって分析を行った。その結果、患者の体験は【信じて実を委ねる】【自分が自分でない感覚】【現状への驚愕】【今後をイメージできる情報を希求】の4カテゴリーが生成された。救急初療を受ける患者は、戸惑い困惑する中で医療者へ依存しながらも自分らしさを維持して生を求め、それを捉えようとしていた。看護師は、救急初療の各局面において患者に対して安らぎと安心を与え、生命の危機に陥った患者を支えることで、患者は継続されるケア療養法を受けとめていくことが可能になると考えられる。この研究結果より、救急初療に関わる看護師には危機的状況下にある患者との間において、理解と納得を得る合意形成を志向したコミュニケーション技術、これを支える人間理解と看護倫理の感性を高めることのできる教育の必要性が示唆された。またこれらの視点を重視しケアが提供され評価される必要がある。救急初療看護の特徴は、既に確定診断がなされた重症集中治療看護とは異なり、顕在する問題は基より潜在的問題への対応、確定診断の着かない状況による全身状態が不安定かつ流動的であることより、一段と看護師の患者への緻密な観察や注意、気配りが等の重要性が増すことである。患者は突然の健康問題の出現によって、身体的苦痛に伴う不安や恐怖、またその状況を理解できずに戸惑う事が予測される。初療にかかわる看護師は、このような危機的状況によって生ずる患者の反応にも注意を向け、それに対応することが責務であり、初療時からの介入を行うことが望ましいと考えられる。医療機関の機能分化・専門性の発揮が求められることとなり、救急医療の担う役割が重要視され、多くの問題点が指摘されている。また、看護基礎教育における救急看護学教育の必要性、救急看護師の役割拡大の可能性についても議論されているが、その具体的な対策とその実現には至っておらず、特に教育面からの救急看護の新たな展開が要求されている。本研究は、初療を受ける患者の実態を明らかにすることで対象の理解を深め、効果的な看護実践を提供するため視点としての基礎的研究である。
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