本研究の目的は、神経難病患者の発病から退職に至るまでの就業中の経験の総体について明らかにし、産業保健の視点から看護上の示唆を得ることである。 本研究は対象者のライフヒストリー中において、自身の神経難病の発病、確定診断、症状の進行、そして退職に至る経過の中で対象者が経験した「就業(職業)に対する行動や経験」について概念化し、その総体を解明する因子探索レベルの研究である。 対象者は現役世代であるから、必然的に若年患者である。まず、神経難病患者の中でも特に若年性パーキンソン病患者に焦点を当てた。その後、パーキンソン病以外の神経難病患者のケースを加味し、総合的に難病患者全体としての特性を考察した。 就業中の経験の総体は32サブカテゴリーで、最終的には10のカテゴリーを創出した。個人的な経験の内容は千差万別ではあるが、一家の主である若年男性患者が最も凄惨な経験をしていた。初期の行動で典型的なものは疾病の隠蔽であり、公表の時期・方法は様々であった。退職までの期間、自己との戦い・努力が見られた。パーキンソン病で特徴的なのは、他の難病と違い薬の調整である程度体調が維持されることであり、ON/OFF状態の存在が周囲の理解と退職の決意に大いに影響を及ぼしていた。SEIQoL-DWの値はライフヒストリーをよく反映しており、特に職業についてはQOLに影響を及ぼす因子として最も大きかった。 職場において出来るだけ安心して若年患者が就業を継続するためには、守秘義務の遂行はもちろん、これら若年患者の経験を理解した上での対処が必要である。難病者であっても、安心して仕事のできる社会が強く望まれる。
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