本研究の目的は、難病患者とともに生きる家族が、家族自身の自己実現の追求に向けて必要とする方略の内容とプロセスを明らかにし、その看護援助について検討することである。 16年度には、夫を介護する妻14例を対象として、妻のライフコース(人生行路)と介護体験における方略の実態及びQOLを分析した。その結果、Baltes & Baltesが規定した最適化モデルに依拠し「妻が望む生き方に向けた方略モデル試案」として、(1)「人生の底の経験」を受容する(2)人生の目的や環境への習熟感覚を持つ(3)病状の進行に合わせて介護負担を補償する(4)在宅介護の引き際を設定する(5)人生の主体として望む生き方を表出する(6)望む生き方に向けて人生を編みなおす等の方略を作成した。 17年度は、患者の発病、気管切開、死別などを体験した10名の妻を対象に、作成した方略モデルの試験的な獲得支援を目的としてインタビューによる看護介入を行った。まず、ライフコースと介護体験に関する思い、妻の望む生き方に向けた方略などについて把握し、方略モデル試案を提示した後に妻の考えや行動などについてインタビューを行った。10名の患者の病名は、パーキンソン氏病が2名、脊髄小脳変性症が2名、筋萎縮性側索硬化症が6名であった。その結果、(1)妻にとり、看護者にライフコースを語り様々な出来事を相対的に評価する過程は、絶望感や虚脱感といった「人生の底の経験」の認識をポジティブな方向へ変容するきっかけとなる(2)望む生き方を表出することや、死別後、夫の行きつけの場所を訪れるなど夫の経験を追体験することは、人生の編みなおしやこれからの生き方の模索につながるきっかけとなることが考えられた。1回〜2回のインタビューによる看護介入であったが、方略モデルの有用性を示す反応が認められることが示唆された。今後は、介護介入の継続と事例数を積み重ね、さらに実用性の高いモデルとして洗練したい。
|