高齢者虐待は様々な要因が複雑に絡み合っているため、その対応は極めて困難である。在宅での虐待事例を発見し、関わりを持つ保健・医療・福祉の専門職の多くは、知識、技術面の不足からくる不安や戸惑い、根本的な解決、好転変化に繋がる有効な手だてが打ち出せないもどかしさ、苛立ち、無力感など、様々な悩み、葛藤を抱えながら試行錯誤の対応に苦慮しているのが現状である。そこで、(1)高齢者虐待の効果的な介入・支援のあり方を探る、(2)高齢者虐待の支援における専門職としての力量形成をはかることを目的に、平成16年5月より医療・保健・福祉の専門職からなる虐待事例検討会を定期的に開催し、虐待事例の分析と支援を重ねながら、事例の経時的変化を追跡した。約1年半にわたる事例追跡・検討の結果、カウンセリング(認知療法)を積み重ねること、認知症の理解を深めることによって、虐待者の抑制力が高まり虐待状況の改善につながった。また、虐待の予防、早期支援を困難にさせている支援者側の要因として、各分野・各職種の役割、日常業務のあり方、連携のとり方等、施設内や地域における様々な問題が浮かび上がり、改善・解決すべき点、方向性などが明らかになった。これらの気づきのいくつかは、高齢者虐待を早期に発見するための<チェックシートの作成>、連携支援の円滑化をはかるための施設内<高齢者虐待支援フローシートの作成>、情報の有効活用にむけての<記録・伝達方法の検討>、高齢者・家族との関係づくりを促進するための<コミュニケーションのとり方の検討>、<啓蒙活動>として高齢者虐待をテーマにしたフォーラムや市民公開講座の企画・開催など、目に見える成果となってあらわれている。
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