本調査に先立ち、1997年に米国で開発されたケアの経験に関連する肯定的な感情を測定する尺度であるThe Picot Caregiver Reward Scaleの日本語版を作成するための調査を実施した。某介護老人保健施設を利用している高齢者の主介護者209名を対象とし、郵送法により調査を実施した。手順としては、PCRSの開発者に日本語への翻訳と使用の許可を得た後、本研究者が翻訳した質問項目に対する7名の主介護者の回答を基に修正を加えた後、back translationを行い、原文と著しく異なる項目を更に修正し、調査を行った。再テスト信頼性の確認は4週間後とした。調査項目は日本語版PCRS(16項目、5件法:「とても思う」、「かなり思う」、「いくらか思う」、「少し思う」、「全く思わない」)、年齢、性別などを用いた。プライバシーの保護等、倫理的に配慮した。有効回答者は115名(55.2%)、再テスト信頼性の分析対象者は26名(12.4%)であった。尺度構成について、各項目の分布の偏りを度数分表により確認した。項目6(私は介護している高齢者に笑ってもらったり、触れたり、視線を合わせることは重要だと思う)において「とても思う」と回答した人が全体の41.7%、「かなり思う」の人が47、0%と肯定的な評価に偏っていたが、その他の項目に大きな偏りは見られなかった。主成分分析を行った結果、第1主成分と項目との相関係数は0.56〜0.74であり、固有値が6.35(43.3%)であったことから、本尺度は一次元性であると判断できる。Cronbachのα係数は0.91と高い内的整合性が得られた。再テスト信頼性に関しては、r=0.88であった。test-retest間で項目ごとのκ係数は、項目14(私は介護を始める前より幸せだと思う)において0.20と低値を示したが、他の項目は0.31〜0.63であった。原版と同様の因子構造が確認され、高い信頼性も得られたことから、本尺度を日本語版として用いることの可能性が示唆されたと言える。 本調査については、日本において18名、米国において35名に対する調査が終了している。各国50名に達した時点で調査を終了する予定である。
|