研究の目的:申請者らはこれまでの研究において、星状膠細胞やミクログリアから分泌されるアポリポ蛋白E(ApoE)が神経細胞表面に存在するApoE受容体を介して神経細胞死を抑制していること、その経路にタウ蛋白リン酸化酵素GSK-3β活性の抑制が関与していることを報告した。そこで、本研究ではApoE受容体リガンドおよびApoE受容体の種類の違いによる細胞死抑制作用および細胞内情報伝達経路の相違を包括的に解析する。ApoE受容体リガンドとしては、今回ApoE以外にもリーリンを対象とする。 結果:マウス胚性癌細胞(P19)にグルタミン酸負荷や血清の除去などにより細胞死を誘発させた。あらかじめ293T細胞を用いて発現させたApoE3、ApoE4、reelinを含む条件培地を加えておいたグループと、加えておかなかったグループ(対照群)とを比較したが、ApoEやreelinによる細胞死抑制効果は認められなかった。そこで、P19細胞をレチノイン酸処理することにより神経細胞様に分化させた後に同様の実験を行ったところ、ApoE3およびreelinに細胞死抑制効果が認められた。 考察とまとめ:ApoE3やreelinの細胞死抑制効果は、P19細胞をそのまま用いた場合には認められず、神経細胞様に分化させたP19細胞の場合には認められた。このように神経細胞様に分化することによって細胞死抑制効果が増強されるメカニズムとして、細胞でのアポE受容体の発現誘導が関係している可能性がある。アポE受容体の種類および発現量の違いによる定量的な解析をさらに続けていく。
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