1.食細胞による死細胞の貧食に関与ずるMFG-E8分子の変異体(D89E)はin vitroにおいて、多くの種類の食細胞による死細胞貧食を障害する作用を有するが、この変異蛋白を経静脈的にマウスに投与したところ、用量依存的に抗リン脂質抗体や抗核抗体が産生された。このD89Eタンパク投与による自己抗体の産生は、ex-vivoでアポトーシスを誘導した死細胞を同時に投与することによりその抗体価が上昇することから、変異タンパクの投与が食細胞による死細胞の処理を遅延させ、その結果、自己抗体産生が誘導されることが分かった。これらの結果により、死細胞貧食が自己に対する免疫寛容の維持に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 2.生体における食細胞による死細胞貧食の生理的意義を明らかにする目的で、一時的にマクロファージを誘導的に欠損することができる遺伝子改変マウスの作製を行った。lysozyme M遺伝子のプロモーターのコントロール下にhHB-EGF cDNAを挿入したノックインマウス(LysM-DTRマウス)を作製したところ、このマウスにジフテリア毒素(DT)を投与すると、脾臓、胸腺、肝臓に存在する食細胞の欠損を誘導できるが、高濃度のDT投与により96時間以内に個体死が起こることが分かった。死因を詳細に検討したところ、組織学的に肺に著明なうっ血と肺胞腔の減少が見られた。免疫組織学的検討により、肺胞マクロファージとともに二型肺胞上皮の欠損が見られ、それに伴って、肺胞洗浄液中のサーファクタントタンパクの著明な減少が見られた。このことからLysM-DTRマウスではマクロファージだけでなく、二型肺胞上皮にもhHB-EGFが発現し、DT投与による同細胞の消失により、ARDS様の呼吸不全が誘発されることが明らかとなった。
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