小胞体内の環境は細胞内の種々の揺動によって影響され、その結果、立体構造が異常となったタンパク質が小胞体内に蓄積する場合がある。この状態を小胞体ストレスと言う。このストレスが過大になるとカスパーゼ12が活性化し、これが他のカスパーゼファミリーメンバーを活性化させて細胞をアポトーシスに導く。このようにカスパーゼ12はイニシエーターとして働くが、その活性化メカニズムは明らかではない。本研究課題は小胞体ストレスの発生とカスパーゼ12活性化を結ぶ経路の解明を目指すものである。 抗アポトーシスタンパク質、Bcl-xL(アポトーシス制御タンパク質群であるBcl-2ファミリーの中心的メンバー)を培養細胞中で過剰発現させると、小胞体ストレス存在下におけるカスパーゼ12の活性化及びアポトーシスが抑制されることが分かった。細胞から免疫沈降法によってBcl-xLを単離してくるとBH3-onlyタンパク質(アポトーシス促進の働きを持つBcl-2ファミリータンパク質)が少なくとも三種類、共沈降してきた。中でもBimは小胞体ストレスの発生に伴って挙動に大きな変化が見られた。Bimは健常細胞中では細胞質ゾル内の重い膜画分に検出されたが、小胞体ストレスの発生に伴ってその一部が軽い膜画分、すなわち小胞体に移行して来ることが判明した。BimのC-末端に小胞体移行シグナルを人為的に付加して細胞内で過剰発現させると細胞はアポトーシスを起こしたが、カスパーゼ12抑制タンパク質を同時に過剰発現させるとアポトーシスが部分的に抑制された。これらの結果は小胞体ストレスの発生に依存したBimの移行がカスパーゼ12活性化の一つの引き金になっていることを示唆する。本研究課題により、これまでミッシングリンクとなっていたステップの一端が明らかとなった。
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