当該研究の課題に沿って、今年度は、1990年代のコンピュータ音楽の全体状況を背景に、先端的作品研究や事例研究を行い、美学研究と理論分析の枠組みを設定し、音楽におけるインタラクションの現状と課題、および美的要請について考察した。 考察の背景となった全体状況は、音楽家にとって使いやすい創作支援アプリケーションが増加したということであり、なかでも、音楽記述言語MAXがmspやjitterを実装して作品制作/上演に使用されることが技術的に容易になったという状況である。この状況の中で、現在、音楽の作品構造や作品構成のための論理構造は、調性やリズムといった、かっての音楽要素パラメータでは記述不可能となり、新たな表現座標軸の必要性が明らかになった。 インタラクション技術が音楽の美的性質を変えた、その核心部分として、本年度はとりわけコミュニケーションの視点からの考察を深め、学会発表等を行った。具体的には、音楽の内在構成要素として、生成される音響とコミュニケーションという二つを視軸として措定し、音響を生み出す仕組み、演奏時の人間どうしのアンサンブルの形成、人間と演奏機材の間のデータ交換、演者と視聴者の関わり、視聴者が作品外で共有する参照点、視聴者の参加、の各枠組みにおいて、ジョン・ケージやイアニス・クセナキスが行った音楽創造との比較検討を加え、その特性を明らかにした。またそこで明らかになった特性を基盤にして、マルチメディア作品を創作し、コンサート作品やインスタレーションの形で発表した。
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