当該研究の課題に沿って、今年度は特に日本のコンピュータ音楽について、その始まりの時期から現在までを歴史的に俯瞰し、かつ、それぞれの作品の美学的課題を検討した。これによって新しいメディアによる音楽を省察するための美的課題を明らかにした。また、視覚要素と聴取要素との対応や置換インタラクションのためのパラメータについて、MAX上のプログラムのレヴェル、オーディエンスの認知段階における視聴覚融合のレヴェル、伝統的マルチメディア芸術である映画やヴィデオ・アートと比較における作品構成のレヴェルなど多角度から検討を加えた。 平成17年度までの研究で調査した海外の事例や平成18年度に集中的に調査した国内事例に関して、次のような検討を進めた。先端的技術を含む作品を音楽作品として分析するのみでなく、舞台上のパフォーンマンス作品として、舞踊を初めとする身体表現との関係において検討した。すなわち、舞台上での身体表現は、身体の動きや形や変化が視覚的にオーディエンスに訴えるという点では舞踊と共通するが、その身体表現が、音を発すること、あるいは音に関して考えることを目的としている、という点で、音楽特有の問題を持っているからである。このような前提のもと、音楽を含むインタラクティヴ作品について美学研究と理論分析の枠組みを設定した。 考察の背景となった全体状況は、音楽家にとって使いやすい創作支援アプリケーションが増加したということであり、なかでも、音楽記述言語MAXがmspやfitterを実装して作品制作/上演に使用されることが技術的に容易になったという状況である。この状況の中で、現在、音楽の作品構造や作品構成のための論理構造は、調性やリズムといった、かつての音楽要素パラメータでは記述不可能となり、新たな表現座標軸の必要性が明らかになった。
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