本年度はまず、科学研究費を申請する準備段階として関東学院大学人間環境学部人間環境研究所に設けられた研究費で既に着手していた研究調査についてのまとめを行った。具体的には長野県須坂市の田中本家博物館所蔵の子供用品調査を、三越呉服店の商品カタログと参照させながら、明治大正期の商品の傾向を明らかにした。資本によって子供用品市場が形成され、様々な取り組みによって消費者の新たな欲望を喚起させていく一方で、輸出品としての子供用品産業が国内市場に流通したことによる子供を介した洋風文化の受容過程についても明らかにした。詳しい調査結果については2004年2月の意匠学会例会において発表し、その概要を同年5月の『デザイン理論』44号に発表している。その後、これらのデータを整理した上で、発表内容に加筆修正した論文を作成し現在『デザイン理論』に投稿中である。 続いて、大正期の生活デザインの実践者たちの子供への関心を考察するため、特に重要なデザイナーの一人である森谷延雄について調査を始めた。森谷のヨーロッパ視察後の詩的なメルヘンの世界は、主にヨーロッパで得たものと考えられているが、それ以前の影響として大正初期の清水組時代の森谷の活動を追った。これについては、デザイン史フォーラム編『アーツ・アンド・クラフツと日本』の中で発表している。さらに関東以外の森谷の代表作として知られる京都大学の楽友会館の調査も行った。 予定していた博物館調査については、既に研究開始前に先行して行っていたため、今年度は上記の楽友会館調査に加え、京都工芸繊維大学所蔵のポスターなどを調査し、子供の消費に関連する図像を検討した。
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