本年度はまず、昨年度デザイン学会部会で発表した内容をもとに、近代初期における子供市場の開拓が、七五三など伝統的なイベントを利用しながら展開し、子供服をはじめとする子供用商品が、近代的な流行商品として位置づけられていく過程を明らかにした論文をまとめた。(デザイン学会誌『デザイン学研究』に2007年5月、掲載が予定されている) さらに、これまでの研究の延長として、大正期、生活の合理化と近代デザイン運動にかかわった家具デザイナーが、特に子供の生活に着目し、子供部屋の提唱をしていった背景を考察し、彼らによる子供的なデザインへの提言が、一見すると対極にあるはずの、同時代の商業主義的な子供用商品にどのような影響を与えているか、詳しく検討した。特に東京高等工芸学校で教鞭をとった木檜恕一と森谷延雄は、生活改善における椅子式生活をはじめとする生活の洋風化を進めたデザイナーとして知られるが、子供の生活からの改善の方がより現実的であるという理由だけでなく、個人的な子供への関心が強くみられ、著作の中でも子供に関する言及が目立った。その関心は、子供の合理的な生活だけでなく、同時代の百貨店などの子供文化や、新たな潮流としての童心主義文学への傾倒からくるものであったという事実を、彼らの著作、及び所蔵図書調査などから明らかにした。この成果は、2006年11月の意匠学会大会において発表し、これを修正及び加筆した内容を論文としてまとめた。 また、今年度は本研究の最終年度にあたるため、2007年2月には国際日本文化研究センターにおいて研究会を開き、これまでの研究成果を発表するとともに、近代初期の子供や家庭をテーマとした文化研究について、今後の共同研究の可能性を探った。
|